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セミ捕りおじさんの思ひ出
昨日は昼近くまで雨でした。
だから今年初のクマゼミは雨の上がった午後近くに少しのあいだ鳴いただけでした。
でも今日は早朝からフツーにガンガン鳴いています。
夏かよっ。
夏だね・・・。
早ければ今日明日にでも九州の南のほうは梅雨明けするかも知れない、と天気予報で言っていました。
ところでクマゼミはジャンジャンジャンと鳴くのでジャンって呼んでました。
ほかのセミもニイニイ、ミンミン、ツクツク、カナカナ、などと呼んでました。
鳴き声がほぼそのまま呼び名です。
でもアブラゼミだけはアブラだったな(笑)。
小さい頃はよくセミ捕りをして遊んだものです。
わしが小学校の低学年の頃「セミ捕りおじさん」と言うおじさんが公園にいました。
別に本人がそう名乗っていたワケではありません。
我々の仲間うちで勝手にそう呼んでいただけです。
よく公園を散歩していたフツーのおじさんでした。
フツーと言っても若い頃はさぞやモテただろうな、って感じのなかなかシブイ男前のおじさんでした。
夏休み、わしと遊び仲間は公園に行ってはしょっ中セミ捕りをしていました。
ただ小学低学年だから身長はまだまだ低い。
木の高い場所に留まったセミには捕虫網が届かずいつも難儀をしていました。
あそこにもここにもいるのに届かない。
精一杯背伸びをしたり網の柄に拾った棒切れをくくりつけて伸ばしたり。
でもあと一歩のところで届きません。
そんなわしらを見かねて寄って来たのがそのおじさんでした。
「ほれ。その網貸してみい。」
と言って高い場所に留まったセミをいともたやすく捕ってくれたのです。
突然のヒーロー登場でした。
それがおじさんとわしらの馴れ初めです。
いや。
おじさんにとっては運の尽きだったかも知れません。
と言うのもそれ以来わしらは公園でおじさんを見つけてはセミの捕獲を頼むようになったから。
おじさんはいつもちょっと面倒くさそうな顔をしていました。
でもちゃんと我々に高い場所のセミを捕ってくれました。
最初に言い出したのが自分だったと言う弱みもあったのかもしれません。
ちなみになぜわしらが見ず知らずのおじさんに頼んでまでそんなにセミを捕りたかったのか?
それはみんなで「何匹捕った!」と競争していたからです。
「場所はこの公園内。時間は2時間!」などと決めて遊んでいたんです。
端的に言えばセミ捕りレース、あるいはセミ捕り合戦ですね。
一度にひとり2〜30匹は捕っていました。
いつしか
「おじさん頼みは3回まで」
みたいなルールも出来ました。
3回と言っても一人あたりの数字です。
いつも4〜5人以上はいましたから、全員がフルにおじさんを活用したら単純に15回はセミを捕らされる計算です。
入れ代わり立ち代わりわしらが何度も頼むので、しまいにはおじさんも呆れて
「自分で捕れんところのセミまで取らんでもええが」
と苦笑いをしていました。
ギュウギュウになった虫かごを見て「佃煮にでもするんか?」と言われたのも覚えています。
結局夏休みが終わるまでおじさんの受難は続いたのでした。
今考えると昼間のあんな時間になぜいつもおじさんが居たのか全く謎です。
隠居したおじいさんと言う年でもなかったし、外回りのサラリーマンふうでもありませんでした。
その後も数年間は公園や近所の道で普通に見掛けていました。
冬にジャンバーを着たおじさんの姿も記憶に残っています。
だから別に夏だけいたワケではありません。
でもセミ捕りおじさんはやはり夏のイメージでした。
季節が巡り再び次の夏がやって来た時。
またもやおじさんには大活躍をしてもらったのでした。
確かその年初めての依頼の時「今年もか」とおじさんは言いました。
結局その夏は友人Aが秘密兵器の特別な工夫をほどこした捕虫網とおじさんの力の相乗効果で100匹と言う大記録を打ち立てたのでした。
しかし、それを境にブームは沈静化していきました。
わしらも少しずつ年齢を重ねていましたからね。
狭い虫かごの中にギュウギュウに詰め込まれたセミたちに哀れな感情を抱くようになったのでしょう。
それに時はおりしもファミコンブームの真っ只中。
プール帰りに友人宅に集まってファミコン大会をする、と言う黄金パターンも確立されていきましたから。
そのうちすっかりセミ捕り合戦は過去のものとなりました。
おじさんの姿もいつの間にか見なくなりました。
そして、あれだけお世話になったのにわしらの記憶からも徐々に消えて行ったのです。
本当の名前もどこに住んでるのかも知らないおじさんでした。
あの頃仮に50代だったとしたらもうとっくに70は過ぎているはずです。
今はどこで何をしてるのでしょうか。
今もセミが鳴き始めるとあのおじさんを思い出します。
相変わらずどこかの公園でちびっ子たちのためにその辣腕を振るっていたりしないだろうか。
そうだったらいいなぁ、と心から思います。
【追記】
そうそう。
実は高校生になった頃、一度だけ商店街でそれらしきおじさんとすれ違ったのを思い出しました。
こっちに気付いたかどうかは分かりません。
でもおじさんは一瞬こちらに向って軽く会釈をしたような気がしました。
わしは高校の友達とワイワイ歩いていたのでほとんど気にも留めずに通り過ぎて行きました。
そして通り過ぎたあとに
「あれってセミ捕りおじさんだったよな?」
「あんなに背が低かったっけ?」
と思っただけ。
もしそれが本当にセミ捕りおじさんだったとしたらおじさんに会ったのはその時が最後です。
道端には少しヨレたアジサイが咲いていてニイニイゼミが鳴きはじめていました。
やがてやってくる盛夏の訪れを前に子供時代を終えようとしているわしにサヨナラの挨拶に来てくれたのかもしれません。
もちろんおじさんは想像の産物でも架空の人物でもありません。
でも子供時代にだけ会える特別な存在だったのかも、なんて気持ちもちょっとだけしています。
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